東京都目黒区にお住いのT様からご依頼いただきました。
日本ではほとんど見かけないハイコ スポルティフ HS7、ボルボ V70Rのチューニングカーです。
私も実車を拝見するまでは、V70Rとどう違うのか分かっていませんでした。
千葉県に日本の正規代理店があるそうです。
メールの問い合わせ時に画像をいただきましたが、革の状態を確認してお客様からヒアリングをしたかったため、お越しいただき事前打ち合わせをしました。
ご相談内容は多岐にわたります。
レザーシートの汚れ、擦れ、シワ、引っかき傷、シミ、他にもメーターパネルの剥がれ傷まで。
この車両の特殊なところはチューニングされたエンジンや車体だけではありません。
内装の本革レザーもかなり珍しい仕様です。
特殊レザーについて
通常の車両に使用されるレザーシートは、本革系(牛革)とシンセティックレザー系(合成皮革)と大きく2種類に分かれます。
肌に当たる表面部分は本革で側面や背面はシンセティックレザーなど部分的に使い分けされるのはどのメーカーでも普通なのですが、それは置いといて。
自動車では、本革の中でも高級シューズのような染料染(アニリンレザー)は使われません。より防汚性能や耐久性が高い顔料染となります。
更に製造メーカーやグレードなどで細かく分類され、価格も大きく変わってくる訳です。
有名なところでは、レクサスのセミアニリンレザー、昔のフェラーリやジャガーやロールスロイス等のコノリーレザー、現行フェラーリや一部のプジョーやアルファはポルトローナ・フラウ製のナッパレザー、最新のポルシェは自社のヴァイザッハ開発センターで研究された最高級レザーだそうです。
他にもアストンマーチンやマクラーレン、AMGは、スコットランドのブリッジ・オブ・ウィアー製のレザーを採用していたり。
これら最高級グレードのレザーは総称でフルグレインレザーと呼ばれます。
通常グレードのピグメントレザーは耐久性重視で加工が多いのに対して、フルグレインレザーは加工が少ないため柔らかく革の表情もアニリンレザーに近いもの。
リペアで常に接しているレザーシートの大半はピグメントレザーまたはフルグレインレザーです。
注意点は異なりますが施工方法の基本は同じです。
しかし、今回は違います。
- アニリンレザー並みに液体が浸透する。
- アンティーク加工されている。(もともと単色ではなくムラ感のある模様がある)
- 業者による補修跡がある。(単色で色も合っていない)
バッファローレザーが使われた、シルキーシックスのBMWに近いですね。
難易度が高く非常にやりがいを感じます(*^-^*)
自動車内装 レザーの種類やお手入れについてはこちらでもご紹介しております。
後日、提携ショップにご入庫いただき2日間の作業となりました。
それでは、見てみましょう。
before
座面に背もたれ。
だいぶ汚れが目立ちます。
ひじ掛けの引っかき傷。
作業開始は、クリーニングからスタートします。
なるべく革の色は落とさずに汚れだけを落とすためクリーニングだけでも時間が掛かりました。
お昼休憩。
リペアされていた変色部分は溶剤を使って、ガシガシ溶かして落としました。
ステッチを傷めないようにマスキングしてサンディング工程。
擦れやひび割れ、皺も浅くなるように修正していきます。
塗装工程では、スプレーガンを3丁使いました。
after
自分で言うのも何ですが、見違えるようになりました。
運転席の座面☝と背もたれ☟
ひじ掛けの引っかき傷も綺麗にリペア。
後部座席に輪ジミが出来ていた原因は素材の加工が原因だと思われます。
初めにご紹介したように、通常のピグメントレザーやフルグレインレザーではなく、アニリンレザーのような素材だったため水分が染みこんでしまいます。その結果、汗や雨、あるいはドリンクを溢したり、ウェットシートで拭いてもシミになる可能性があります。
恐らく、新車の状態では多少の防汚加工がされていたのではないかと思いますが、乗車による自然摩擦で徐々に落ちてしまったのではないでしょうか?
この状態では、クリーナーでの染み抜きは効果が無く、下地処理後にリペアで薄く塗装する必要があります。
また、アンティーク調のまだら模様を再現するのも簡単ではありません。高級なフルグレインレザーと同様に柔軟性を保ったまま仕上げる必要があるからです。
最終的な仕上げ塗膜が厚くならないように、クリーニングと下地処理の段階から仕上がりを想定して工程も工夫します。2~3色の塗料を用意して濃淡や模様を描きながら仕上げてようやく完成となります。
お引取りにこられたT様にご確認いただき終了、とっても喜んでいただけました(^_^)
今日は気合を入れてハルク!